子どもの頃 グラバー邸によく行った
これはその初めで 生まれて4ヶ月の子どもに もちろん記憶はない
笑う母をまん中に 三聖母子像のよう
だが違う ここにはもう一人の男が写っている
カメラを構えて笑っている 父の姿がいつも見える
二十八の母は 二十九の父と 笑いながら話をしている
それを聞きながら ぼくはお兄ちゃん と姿勢を正す兄
だが ようやく首のすわり始めた子どもは
ぼんやりカメラを見つめながら せかいをにんしきし始める
ホラホラ おとうさまですよ 見てごらん
耳元でささやく声が いつも記憶の向こうから聞こえる
虫の音が草むらをかすかに揺らし 風は静かに流れていった
それは原爆が落とされて9年のちの夏
ささやかに訪れた やすらかな一日
神が祝福してくれた 永遠の一瞬(とわのひととき)
かずま