今、世田谷公衆トイレの改修設計を行っている。
このトイレは30年程前のコンペで選ばれ実現した、私の処女作だ。
その後、絶対通らないと言われていた都市計画道路が通り、2階に行く階段が道路と抵触するため取り壊しの危機に瀕したが、付近の住民から多くの嘆願書が出されて残ることになり、階段を歩道に沿って内にカーブする形で決着し、改修された。
そして今、再度の改修が2020東京オリンピックに合わせて行われようとしている。
今回の改修の主な目的は老朽化への対応だが、それだけではなく、近くにあるオリンピック会場の馬事公苑界わいやまちの魅力向上(「うままちプロジェクト」)の一環でもあるので、単なる改修で終わらせたくはなかった。
また、都と区の話合いで、2階は防災倉庫にし、その分1階にトイレを増設するのが条件だった。
2階の太陽と共に刻々と動いていくモアレの光が無くなってしまうのは残念だが、それに代わる今回の改修の意義(というか提案)を2つ程行いたいと考えている。
1つ目は、世田谷通りに面してカーブするファサード全面を常緑のツタで緑化し、緑のランドマークにすることだ。
現在も、前回の改修で階段に沿って設けたフェンスには、春から夏はナツヅタが繁り、緑の小山をつくっているが、これを一年中楽しめ、車で通る度に緑のランドマークとして感じられるようにしたい。
そして、この緑のゲートを抜けてトイレにアプローチするようにしたい。
2つ目は、1階に設けられる大小の4つのブースは全て多目的トイレとし、機能を分散してチョイスできるようにすることだ。
私は以前から小さな公衆トイレの中を男、女、多目的トイレに分けて、さらに男、女のトイレ内を狭苦しい細かなブースに分けることに疑問を感じていた。
これではベビーカーや親子連れ、高齢者、重いトランクを持つ人などは多目的トイレが空くのを待つしかない。LGBTなど、性の多様化が進んだ今の社会にも対応していない。
だから、今回の改修で、これからの公衆トイレのスタンダードとなる考え方を提案したいと強く思っている。
その他にもいくつかあるが、設計中なので、細かなことは言えない。
設計は7月末、工事は年度内に完了する。
先日、区で30年程前に私が描いた手描きの原図を返してもらった。
菊竹事務所スタイルのA1の図面で、平面詳細や断面詳細は1/20、1/5で描かれていて、徹夜で描いたあの頃のことが改めて思い出された。
あの頃の気合いに負けないトイレを設計したい。
かずま