
なぜなら、勉強しなくて済むからだ。
私には4才半(学年で言えば5つ)上の兄がいて、兄のおかげでずいぶん楽をした。
私は子供の頃、言葉を話すようになるのが遅く、(そのためMはずいぶん心配したらしいが、)ひらがなやカタカナ、漢字を読めるようになるのは早く、好奇心に任せて家にあるものは何でも読んだ。
どういうわけかMは兄の教科書を本棚にすべて保管していた。私はそれを片っ端から読み、小学校に上がる頃には1学年上くらいのことはほぼ知っていた。
こんな調子だったので、小学校時代、勉強したという記憶がほとんどない。
また、兄は「中1コース」や「中2時代」などの月刊誌を中学、高校時代とっていて、それには毎月小さな付録の推理小説が付き、私はこれを読むのが大好きだったので、中学に上がる頃には、アガサ・クリスティやエラリー・クイーン、レイモンド・チャンドラー、レスリー・チャータリスなどの作品は知っていた。
推理小説に強くなったことで、ますます勉強しなくて済むようになった。テストで知らない問題が出ても慌てず、「犯人は必ずこの中にいる」とじっくり読んで回答すると、ほとんど当たった。
(それは現調でホシを見つけて来る、現在の建築の仕事にも役立っている)
私は「頭のいい子」や「勉強のできる子」ではない。
本が好きで、ただ単に先に知っていただけだ。推理小説で考える癖がつき、さらに補完されたが、勉強はとても嫌いだった。
特に受験勉強は(中学、高校が受験校だったので、余計に)嫌いだった。
新しいことを知るのは好きだが、テストのための勉強は少しもしたくなかった。
ここでも「本が好き」に救われた。
一番薄い問題集を買ってきて、問題の次に答を読み、小説や物語を読むように「なるほど」と味わいながら一冊を読み終える。(解いてはいけない)
次に倍速で同じことをする。次に4倍速で同じことをする。するとその次は、問題を読むと自然に答が浮かんで来る。
要は我流の悪い癖を付けずにモード(雰囲気)に入り、自然と答に行き着けるようにすることだ。問題は異なってもほとんどはそのバリエーションに過ぎない。
このやり方で、高校、大学、大学院、一級建築士と、ほとんど受験勉強らしい勉強をせずに済んだ。もちろん、もうやりたくはないが・・・
私が初めて夢中で読んだ本は「レ・ミゼラブル」を子供向けに翻訳した「ああ無情」だ。(確か、少年少女世界文学全集の一冊で、濃紺の背表紙だった)
この本を小学校の図書館から借りて、翌日の朝、読み出したら止まらなくなった。最後の、ジャン・ヴァルジャンの命とロウソクの炎が共に消えようとするシーンでは、「神様、どうか炎を消さないでください!」とお祈りしながら読んだ。
読み終わった後、外を見ると雪が降っていた。
だが、身体がカッカして、少しも気がつかなかった。
もう一度、ああいう、無心で夢中な読書ができたら幸せだな、といつも思う。
かずま