長い旅の終わり そして新しい旅の始まり

マニラに行った。

クライアントのMさんから「敷地を見てくれ」とのメイルが来て、いつ？と聞くと、４日後だと言う。慌てて飛行機を予約し、他の仕事の残った分をスタッフに説明し、向かった。

Mさんとの仕事はいつもこんな風に、突然始まる。

しかも今回は内容を全く知らない。まるで謎解きのような時間がマニラに着いてからも続く。

空港からいきなりC設計事務所に連れて行かれた。ボスのCさんはフィリピンでは有名な建築家で、今まで何度か会ったことがある。雑談をしながらMさんを待っていると、30分程してMさんがやってきて、小さな２つの敷地図を広げ、話を始める。これがどこなのか、さっぱりわからない。Cさんはそれを見ながら、不動産のコンサルに電話をかけ、やがて彼らがやってきて、さらに話が続く。

どうやら計画は始まったばかりで、土地の運用や何が建つか、何ができるかを構想する段階なのだとわかる。そして、その２つの敷地に連れて行かれ、よく見ておけと言われる。直感と霊感が試される瞬間だ。

私はファースト・インスピレーションをとても大切にする。それはその人の人生全てを通して出てくる何かだからだ。街の匂いや騒音、風の吹き方なども加わり、その時、その瞬間にしか感じられない何かだ。それはたとえAIが発達しても、生身の人間にしか感じられないものだ。

その夜、食事をしながらMさんが自分の夢について語り始めた。

新しいオフィスを作ってそこで仕事をしたいと言う。もし、それが実現されると、私の知ってるだけで４つ目のオフィスだ。しかも、今のオフィスも７年程前に完成し、別に悪いオフィスではない。じゃ、なぜ？

Mさんはいつも高い目標を掲げ、それに向かって努力してきた。今の自分を守るのではなく、常にチャレンジャーとして戦い続けてきた。その生き様をずっと見てきたから、今回の話もその延長上にあることはすぐにわかる。だが、いつもとちょっとニュアンスが違う。それは、なぜ？

Mさんは実は私と同い年だ。数年前には大病もした。だからここで一つの集大成をしてある種の区切りをつけ、それからさらに前に進みたいと思ったのかもしれない。そういう微妙な心理が感じられる。

かくいう私も同じような気持ちはある。

これからもずっと人生が永く続いて欲しいとは思うが、実際はある瞬間プツリと切れる。それがいつなのか、明日なのか、十年先なのかは誰にもわからない。だが、いつその時が来てもいいよう、為すべきことは成しておきたいといつも思う。

実はマニラ行きが決まった時、もしかしたら今回死ぬかもしれないと思った。

楽天家の私には珍しく、飛行機が落ちるか、マニラで事故に遭うか、そんな気がした。でも、いいや、予定調和的な作られた人生より、予期なく突然終わる人生の方が本当で本物だなと思った。

結果は何事もなく無事戻ってきて、今こうして文章を書いている。

人生は旅に例えられるが、なんとなく今回のマニラ行きで長い旅が終わったような気がした。そして戻ってきたら、何か憑き物が落ちたような、生まれ変わったような気がした。

また新しい旅が始まった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　かずま