一年のうちで一番好きな季節は?と聞かれたら、迷わず、「秋」と答える。
何月?と聞かれたら、「11月」と答える。
それほど私は、11月の澄みきった空気ともうじき冬が来る緊張感、そして色づいた樹々の木の葉の散る景色が好きだ。
この時ばかりは日本人に生まれたことの幸運と喜びを感じ、神に感謝する。
しかし今年の11月はいつもの11月ではなかった。
いつまでたっても空気は冷たくならず、あの独特の緊張感が沸き起こってこない。
しかも葉の色づきは遅れ、楽しみにしていた、この世の果てのような木の葉の乱舞も見られない。
いつもだったら「黄金の11月」と呼んでいた季節は過ぎて、やっと12月に入ってからそれに似た景色が始まった。
でも、良しとしよう。曲がりなりにも「黄金の12月」を味わえたのだから。
この頃になるとカメラを持って黄金色に染まった景色を写真に撮るのが昔から好きだった。ファインダーの中の黄金色をぼんやり見つめていると、いつしか子供の頃に戻って、こんな景色の中で遊んでいた自分と重なっていくのだ・・・
確か、廃屋のような木造の2階建ての校舎があった。海を見下ろす丘の上に。
そこで兄が絵を習っていて、「入ってはいけない」と言われていたので、一人で外で遊んでいた。秋のよわい陽射しの中で。
冬が近づいていた。
不安だった。
夕陽を見た。
死を感じた。
が、それはどこか甘美で、「永遠」につながっていた。
十字架の格好をして崖から飛び下りた。
わらの上にやわらかく落ちた。
何回も何回もそれをくり返した・・・
そのままでいると本当に死んでしまうような気がしたので、「入ってはいけない」と言われた校舎に入り、兄の所へそっと歩いていった。
絵の先生が気づいてあたたかく迎えてくれた。
死なないですんだ・・・
黄金色の景色を見ていると、こんな子供の頃の記憶を思い出す。
秋は「永遠」につながっている。
かずま