
子供の頃、東京が嫌いで嫌いでしょうがなかった。
それまで過ごした長崎は、入り組んだ海と山に囲まれ、景色が一瞬の内に理解でき、いろんな国の文化が入り混じっていて、濃密で、すべてが身体の一部のように感じることができた。
しかし東京は茫洋と広がっていて、どこからどこまでが境界なのかわからず、漠然としていて、のっぺらぼうで、子供の私には不安だった。
親しみを感じることができず、早く長崎に帰ろう、帰ろう、とばかり親に言っていた。
そんな時に表参道に出会った。
とてもびっくりした。
東京にも長崎に負けない、(いや、それ以上の)坂道があることを知った。
夢中になって歩いた。
上っては下り、上っては下り、そればかりを何度もくり返した。
地面の底から何かが伝わって来るのを感じた。
空を見上げると、樹々の合間から明るい陽差しが降って来た。
航空母艦のカタパルトのように
坂道がそのまま永遠につながっていくように感じた。
初めて東京にも「永遠」があることを知った。
あれから40年が経ったが、今でもこの気持ちは変わらない。
先日、フィリピンのクライアントのお母さんが75才の誕生日を迎えた。
お祝いの会に招かれたが、別用があって行けなかった。
代わりにメッセージを添えて、この景色をネットで送った。
一番大切にしているものをあげた。
かずま