模型や本で事務所が手狭になり、もう何年も前から引越を考えていた。
今度移るとしたら賃貸ではなく購入して、パーフェクトゲームがしてみたいと思っていた。
資金が少ないので最初は郊外に移ろうと思った。この際だから、表参道の次に好きな横浜にしようと思い、事務所のメンバーに話をしたら、全員やめると言う。
仕様がないので、多摩川よりこっちは東京だと言って、二子玉までを範囲に探した。
自由が丘で良い物件に出会った。遊歩道沿いの緑が見えるオフィスで気に入った。
最初はそこにしようかなと思った。だが、しばらくして、やはりやめることにした。そこに移ったら、あまりに気持ちよ過ぎて眠くなりそうだ。何より刺激が足りない。
その時、初めて私は表参道に長くいて、街から刺激とエネルギーを自然と受けていたことに気づいた。私のような職業をしている人間にとって、それは毎日の食事のようにかけがえの無い大切なものだということに改めて気づかされた。
朝、地下鉄のA1の出口から外に出ると、気持ちの良いケヤキ並木が迎えてくれる。
昼、食事で外に出ると、行き交う人の服装や化粧、持ち物で今流行っている物が何だかわかる。また、新しくできた店や模様替した店に出会うと何かを教えられる。
夜、帰りがけにぶらっと街を散歩すると、四季の変化や移ろいに気づく。
そうした平凡な毎日の繰り返しの中で私は街からいろんなものを学んで来た。
私は街に育てられた。
やはり街は大切だ。
渋谷、青山、表参道、乃木坂、六本木、赤坂、麻布十番・・・
いろいろ探して見た。
途中で何度かここにしようと思う物件に出会ったが、いずれもタッチの差で逃した。
そしてひょんなことから、今の事務所から歩いて10分程の神宮外苑でそれを見つけた。
大きさはあまり変わらないので不満だが、上手にリフォームすれば何とかなるだろう。
また、私は目の上のたんこぶは嫌いなので、最上階なのはうれしい。
神宮の花火大会も間近で見られる。
国立競技場もすぐそばなので、改築の様子も楽しめそうだ。
だんだんイメージが湧いて来た。
古い契約書を見ると、表参道の部屋を借り始めたのは22年前の今日だった。
それ以前にキャットストリートに間借りしていた頃も合わせると、四半世紀この街にお世話になったことになる。人生の半分近くをこの街と共に生きてきた。
私自身はこれからも最寄り駅は表参道で、この街から離れることはないし、この関係は続くだろうが、妙に感慨深いものがある。
改めて、感謝を込めて言おう。
ありがとう、表参道
大好きだった
これからもよろしく
かずま