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2023年 11月 19日
その時、久しぶりに会った読書家のMさんに、何か面白い本ある?と聞いた。 最近、仕事の本やハウツー本に偏り、めっきり小説や文学作品に触れてないので、少し干からびた心に水をやろうと思ったのだ。 Mさんは直ぐに、最近読んだ町田康の小説に頭を殴られたようにまだ呆けている、最後の方がドストエフスキーの「白痴」の最後のように、青空がすぽんと抜けてるような透明感、しかも無音の世界だった、と語った。 その時は食事中で、小説の題名を聞きそびれたので、後でメイルで聞いたら、「告白」だった。図書館にあったので、借りて読み始めた。 実はこの小説は読売新聞の連載中に少し読み、途中でやめてしまった小説だ。 当時、交通事故で左脳をやられた父を看ていたので、頭を殴るシーンや殺人などが出てくると気分的に読めなくなり、これはまさにそれだった。 だが、Mさんの言う「青空がすぽんと抜けてるような透明感」や「無音の世界」がどんなものか知りたくて、今回読み始めた。676ページもある大部の小説、しかも河内弁の会話や地名、難しい漢字も多く、途中までは難儀したが、後半は慣れ、なんとか読み終えた。 題材は河内音頭の「河内十人斬り」でも取り上げられている、明治26年に実際にあった話で、それを町田康は戯作調に活写し、主人公の気持ちや思考の流れをドストエフスキーのように代弁していく。 読んでみてわかったのは、私が読むのをやめた最初の殺人(らしき出来事)が起こるのは、始まって間もなく、全体の1/10を過ぎたくらいの所で、全体の1/3は新聞連載後に新たに書き加えられた、私にとっては未知の新作と言ってもよい代物だった。 主人公は多くの思弁を繰り返したあげく、金と女と仁義で恨みつらみのある人間達を舎弟の協力を得ながら斬り殺す。そして山に逃げ込み、行方を眩ましながら取り逃がした者の殺害を目論む。だが、最終的には舎弟を銃で撃ち、自分も自害する。 その最後のシーンで、自分の人生を振り返りながら、暴力の先にある到達した何かを言葉で表そうと必死にもがく。 熊太郎はもう一度引き金に足指をかけ、本当の本当の本当のところの 自分の思いを自分の心の奥底に探った。 曠野であった。 なんらの言葉もなかった。 なんらの思いもなかった。 なにひとつ出てこなかった。 ただ涙があふれるばかりだった。 熊太郎の口から息のような声が洩れた。 「あかんかった」 銃声が谺した。 白い煙が青い空に立ちのぼってすぐに掻き消えた。 何もなかったのだ。無だったのだ。呆然とする結末だった。 (つづく) Odyssey of Iska 150-0001 渋谷区神宮前2-6-6-704 tel. 03-5785-1671 odyssey@iska.jp https://www.iska.jp #
by odysseyofiska
| 2023-11-19 18:30
2023年 10月 31日
神戸に行った。 以前、中学の同期で四国を旅した際、次はIさんのいる神戸だね、と場所は決まっていたのだが、コロナで延び延びとなり、5年ぶりに実現した旅だ。 行く前にIさんから何度か日程表がメイルで送られてきて、それにみんなが返信し、ワイワイガヤガヤ騒がしい。既に旅しているような気分だ。 当日は午後2時少し前に新神戸駅に集まり、ポートループバスで旧居留地を周るのだが、私は午前中から神戸に行って、ジャズ喫茶で久しぶりに一人でジャズを楽しむことにした。 神戸は横浜と日本のジャズ発祥の地を争うくらい、ジャズの盛んな街だ。 当然、ジャズ喫茶やライブスポットも多い。だが、午前中からやってる店はさすがに少なく、そのうちの一つ「M&M」に開店11時に階段を上り、滑り込む。 当然、客は私一人だ。パット・メセニーの「Secret Story」がかかっている。 ブラジルやワールドミュージック、ジャズ、ロックの香りがする快適で爽やかな朝の始まりだ。 水出しコーヒーを飲みながらオリジナルバームクーヘンを食べる。美味しい。 立って、一つ一つの調度品やポスター、絵を眺めながら部屋を一周する。 その間、マスターはずっと私を一人にさせている。とても寡黙な人だ。 ランチタイムになり、客が2人、3人と入ってきて、マスターの忙しく応対する姿を眺める。そしてパットのCDが終わるのを見計らって外に出る。 三宮の街をゆっくり見ながら、新神戸に向かう。 着くと、なんと欠席すると言ってたHさんがいるではないか!びっくり! だが、バスが再び三宮に着いた時、突然、彼女が降りたのには二度びっくり!! わずか30分みんなと会うために、わざわざ奈良からやってきて、予定があるのでまた奈良に戻るのだ。こんな奇特な人はめったにいない。 バスが終点のハーバーランドに着いたので、降りてホテルにチェックインし、再びハーバーランド、メリケンパークをみんなで散歩する。私は神戸は4回目だが、海辺を歩くのは初めてだ。横浜や生まれた長崎を思い出す。(メリケンパークには1995年の阪神・淡路大震災の傷跡を保存したメモリアルパークがあった。) そしてシーバスに戻り、クルーズ船を待つ。(そこから見える工事中のポートタワーの工事フェンスはよかった。さすが、神戸!) クルーズ船は6時丁度に出発し、港の外に出た後再び引き返し、神戸大橋の近くで止まって海から花火を見る。最初はちょっとスケールが小さいな、と思ったが、「BE KOBE」の文字の花火や大観覧車を模した花火など、工夫された花火がいくつもあって、見ていくうちにおもしろくなり、記憶に残る花火となった。 夜は港の近くの最上階の個室でみんなで食事し、その後ホテルに戻ってT君の部屋に集まり、遅くまで話し込んだ。時間はいくらあっても足りない。 翌朝は9時にホテルを出て元町に行き、旧居留地や元町商店街をみんなで歩いた。 その後、シティループバスで新神戸に行き、ロープウェイでハーブ園に行った。 ここは全く知らなかったが、なかなか気持ちの良い所で、休日であれば、日がな一日のんびりしながら、神戸の全景を見たり、いろんなハーブの香りを嗅ぎ分けたり、ドイツビールを飲みながら楽しい話をしたり、足湯に入ったり、ハンモックで昼寝をしたり、日没までゆっくり過ごすだろう。 だが、楽しい物語にはいつも終わりがある。 日が傾きかけた頃、ロープウェイで新神戸に戻り、散会した。 帰りの新幹線でボーッと外を見ながら楽しかった時間を反芻した。 東寺が見え、列車がスーッと京都に止まった。 その瞬間、昔、修学旅行で初めて行った奈良・京都を思い出した。 あの時は古い寺や庭の良さが全く分からず、退屈だった。 だが、二度目の修学旅行で奈良・京都に目覚め、大学時代は毎年通った。 人生も後半に入った今、純粋な時代に出会った人々で、 紅葉が花吹雪のように舞う頃、京都を旅してみたい。 その時、みんなはどんな話をするのだろうか・・・ そんなことを夢想しながら東京に戻った。 かずま #
by odysseyofiska
| 2023-10-31 19:36
2023年 07月 31日
一月程前の話だが、マニラに行った。 ある有名な教会の、1年間に渡る設立75周年記念行事の最後のミサに出るために。 この教会のCoffee table bookに付けるポップアップを私が担当することになり、七転八倒した話は既に書いた。(→https://odysseyi.exblog.jp/241792121/) だが、それは4月が終わっても、5月になっても、メイルや電話のやりとりが続き、内心ヤキモキした。本当に間に合うのだろうか? 遅くなったのには理由がある。 ポップアップの背景がなかなか決まらなかったのだ。 当初、ベトナムの制作チームは実際の敷地をリアルに再現し、建物もリアルな色にしようとした。だが、それは今回のCoffee table bookの内容や主題には相応しくない。クライアントのMさんがポップアップを本に付けようと思ったのも、そしてそれを私に依頼したのも、もっとピュアなファンタジーの要素、現実ではない神の世界に近づくための端緒をこのポップアップに求めたのではないか。 なので、今あるものをただ並べただけのデザインや、現実を可視化するだけのデザインはしたくなかった。 ドノバンの唄う「Brother Sun Sister Moon」をかけたり、「もっと天国にしてくれ」などとわけの分かったような分からないようなことを何度も言った。 そんなある日、夢の中で、この教会の最も象徴的な絵「幼子イエスを抱くマリア」の二人が、雲の中で左右に分かれ、その間に教会が浮かぶシーンが現れた。 目が覚めた時、これしかないなと感じた。 スタッフのK君が60種類以上の色で何度も打ち出し、その内の一枚をマニラとホーチミンに送った。 マニラに着いた時、本やポップアップが完成してるのか、してないのか知らなかった。翌日のミサやその後のレセプションの準備で皆忙しそうだった。 当日は夕方までホテルで待機し、ミサの始まる直前に教会に行った。 前から数列後ろの席にいたら、一番前に行くようスタッフに促された。おかげでミサの様子がよく見えた。 ミサはとても盛大で、1時間半くらい続いた。その間、参列者と同じように振る舞いながら、昔初めて教会に行った頃を思い出した・・・ 4、5歳頃だった。 毎日曜日、朝、長崎の小さな教会に通った。小さな手に5円玉を握りしめて。 父と母はクリスチャンではなかったが、我が子の教育に良いと思ったのだろう。 黒い服をまとった神父は幼い子でもわかるよう、いつもやさしく語ってくれた。 半分くらいは上の空だったが、残りの半分くらいはどこか心に残った。 話が終わると、前から順々に黒い帽子が回ってきて、それに5円玉を入れた。 そして一列に並び、ウエハースのような小さなものをもらい、食べた。 この儀式を幼い子どもは大変気に入った。 精霊が自分の体内にスーッと入っていくようで。 幼稚園もその小さな教会にあったので、そのまま通った。 毎回、食事の時はお祈りをした。時々薄眼を開けて、みんなの様子を見ながら。 ある時、先生と衝突して「神様なんか在せん!」と叫んだ。すると先生は言った。 「在すよ、心の中でかずまくんを見ているもう一人のかずまくんが。 それが神様です。」 ドキーンとした。それ以来、神様が自分をずっと見ているような気がしている。 それから30年以上経ったある日、 父が交通事故で脳をやられ、どうなるかわからない、と母から突然電話を受けた。 病院に向かう電車の中で西に沈む夕陽に向かって深いお祈りをした。 (神様、私の命と引き換えに、大好きな父を生かしてください。 その代わり、私の命と人生はあなたに捧げます。) だから、それ以降の私の命と人生は私のものではない。 そんなことの一つ一つが走馬灯のように蘇っていった。 私はクリスチャンではないが、生まれた長崎の影響を強く受けている。 それは単にキリスト教のことを言っているのではなく、丘の上から見た西に沈む夕陽や、その後に現れる夜の星、風に揺れる山川草木や、そこに潜む命など、初めて見た頃の自然に対する慈しみや畏敬の念の数々で、その思いは年々深まっていく。 それが私の言う神であり、特定の宗教の神を指してはいない。 だが、その切っ掛けは、あの幼き日の日曜学校から始まっている。 ミサが終わり、神父たちが退場して一段落した頃、Coffee table bookの発行セレモニーが始まった。本の編集やポップアップに関わった人々が壇上に上がり、記念撮影をした。その時、本とポップアップが初お披露目されたので、少なくとも数冊は完成していることを知った。間に合ってよかった、と安堵した。 その後は教会に隣接する信徒館で盛大なパーティが開かれ、関係者で夜遅くまで賑わった。ホテルに戻った時は翌日を回っていた。 翌朝は編集者のAさんとゆっくりホテルで過ごした。 午後にMさんが来て、空港まで送ってくれた。 別れ際に大きな薄いダンボールケースを渡された。 中身を聞いたら、「ドライマンゴーだ」と言ったので、成田の税関チェックでも「ドライマンゴーだ」と答え、そのまま外に出た。 家に着き、開けてみると、それは完成したばかりの本とポップアップだった。 私は感動で涙が出そうになった。 またしてもMさんにやられた! と思いながら、夜中の3時まで本とポップアップを何度も開き、見惚れた。 かずま #
by odysseyofiska
| 2023-07-31 19:45
2023年 05月 31日
美郷町に行った。3年目の仕事が始まった。 今年度は、昨年、実施設計した名水市場湧太郎、観光案内休憩所の改修の現場監理と展示デザイン・制作を行う。 いつものように大曲の駅でMさん、D君にピックアップしてもらい、六郷の名水市場に直行する。東京の家を朝5時に出ると、10時15分には目的地に着く。秋田は近い。そう思わせてくれるのは、日本の鉄道の優秀さと時間を必ず守る律儀な国民性から来てるのだが、むろん外国ではこうはならない。日本に生まれたことに感謝する。 名水市場ではネイチャーガイドのTさんが出迎えてくれ、程なくして現れたこの仕事の役場の担当者のKさんと3人で六郷湧水群を見て回る。Tさんはお手製のパネルで説明をしながら時々問題を出し、私やKさんが答えると、「ご名答です」と応じる。まるで3人でブラタモリを演ってるみたいだ。 このガイドツアーを薦めてくれたのは実はMさんとD君で、体験してよかった、町の人の生活に湧水が根付いてるのがよくわかったと言ってたからだ。 私たちがやろうとしている展示デザイン・制作は、従来の綺麗な写真とロゴのポスターや学習的なものではなく、美郷町の湧水群は町中に湧き出て、古くから生活と密着してきたので、それを一つ一つ掘り起こして、ほっこりした、美郷町ならではのものにしたいのだ。 藤清水まで来ると爽やかな風が吹いて気持ちが良かった。 この場にずっと座って、やさしく揺れる水面をボーっと眺めていたかった。 午後は観光案内休憩所で、デザイナーのSさん、Kさん、Mさん、D君、私、の5人で展示デザイン・制作についてディスカッションをした。というか、フリートーキングをしながら、感覚的なキーワードやイメージ、アイデアを出し合った。 無理に決めるとウソになる。この段階では妙に決めつけないで、出てきたいろいろなものを身体で咀嚼しながら楽しんでいく。そのうち射程距離の長いものだけが確かなものに変わって残っていく。ある意味、一番創造的で楽しい時間だ。 その後、今夜泊まる「やぶ前」の鍵を借りに、Wさんのいる「北のくらし研究所」に行く。ここは美郷町が合併する前の旧六郷町役場だった所で、そこを有効活用するためのコンペで提案書が選ばれ、ギャラリー、イベント、ワークショップ、工房、クリエイターインレジデンスに変わりつつある。いわば、美郷町の新しい風だ。 もう直ぐ行われるパフォーマンスイベント「ちょうちょう(町長)はどこですか?」の準備の真っ最中で忙しかったろうに、Wさんは館内を案内してくれ、興味津々でみんなでゾロゾロ見ていくうちにいつの間にか屋上まで上ってしまった。 横手盆地がぐるっと見渡せ、遠くに大好きな鳥海山も見える。 「今日は天気がいいので、田んぼに沈む夕陽を見に行こう」とWさんが言う。 凄いスピードで走るWさんの乗った車にどんどん離されて行く。 気がついたら、スキー場のゲレンデにいた。 草むらを通り抜けていくほのかな風を感じながら、沈む夕陽をずっと見ていた。 至福の時間だった。 翌日は、午前はネイチャーガイドのTさんとKさんに湧水のヒアリングを行った。 午後は、工事の施工を行う担当者たちと(zoomでは事前に話をしていたが、)直接顔を合わせるのは初めての全体会議を行い、工事の注意点や情報共有、スケジュールの確認、質疑などを行った。 現場が始まった。 かずま #
by odysseyofiska
| 2023-05-31 22:01
2023年 04月 30日
マニラにある有名な教会の75周年記念にCoffee table book(写真やテキストで構成したハードカバーの大型本)を出すので、それに付ける教会のポップアップを作ってくれ、同じ建築だからお前ならできるだろ?という無茶振りである。 Mさんからの依頼はいつもこんな感じで、初めはギョッとしたが、だんだん慣れて来て、毎回それを楽しむようになった。 だが、今回は勝手が違う。私は東工大のC先生と違い、建築のポップアップなど作ったことがない。聞くと、4月には出版したい、冊数は5万冊で、ローマ法皇にも献上すると言う。少し青くなり、真剣に調べ始めた。 この教会のwebサイトを見ると、昨年の6月から記念行事は1年間行われているので、4月の出版、5万冊は?だとしても、6月の記念行事の終わりまでには本とポップアップの制作は必須だろう。 図面を求めても、設計当初の青焼きの立面図、教会のパンフレット程度の平面図、十数枚の写真しか送られて来ない。しょうがないので、それでポップアップ用の図面を作り、試作品を作ることにした。 ポップアップは飛び出す絵本として知られ、私も昔から恐竜や海の動物などいくつか持っているが、建築は外観だけの、子どもだましの物がほとんどだ。だから、やるならインテリアもバッチリ見えるものが作りたかった。 調べて行くうちに、(これも外観だけだが、)繊細なニューヨークの聖パトリック教会のポップアップをネット上で見つけ、4つ購入して、分解しながら試作品を作った。そして販売元に電話し、協力を仰ぐことにした。だが、そこは輸入し売ってるだけで、実際の制作はベトナムのホーチミンの会社が行っていることがわかった。しかも取引きは数年前に終了し、その後のことはわからないと言う。 会社の名前と住所を教えてもらい、調べて行くうちに、ホーチミンがポップアップ制作の一大拠点で、他にも何社か似たような会社のあることがわかった。 Mさんにこれまでの経緯を報告した。すると、すぐにマニラに来てくれ、そして教会を見てプロジェクトチームとミーティングした後、一緒にホーチミンに行こうと言われた。 かくして2月の終わり、マニラとホーチミンに行った。 教会は水曜日のミサで、夜なのに凄い人出だった。ホーチミンでは4社と面談した。帰りは深夜便で、羽田に着く寸前にCAの天使のようなささやきで眠りから覚めた。 戻ってからすぐにポップアップ用の図面を各社に送った。1社からすぐに2パターンの試作品ビデオが送られてきた。ほどなくしてもう1社からもきた。どちらも意欲的でクオリティが高く、ハングリー精神を感じる。Mさんは彼らをマニラに招き、教会を実際に見学させたので、やたらリアルだ。スケッチや写真で手直しを指示し、そのやり取りを繰り返してブラッシュアップしていく。 一方、本はハードカバーとソフトカバーの2バージョンで印刷は何版かに分け、本とポップアップも大きさは同じだが別々にすることを提案し、了承された。 そうすることで第1版の冊数を減らし、本の印刷はシンガポール、ポップアップはベトナムで制作することができる。 また、ポップアップを見ながら本を読むこともできる。 だんだんリアリティが出てきた。 4月に入り、時間が迫ってきたので、ブラッシュアップしたモデルをマニラに送ってもらい、プロジェクトチームで決めることにした。 着いた日も次の日もマニラは珍しく雨だった。 Mさんの会社の特別室に行くと、プロジェクトチームのみんなが集まってて、一月半ぶりの再会に話が弾んだ。 と、そこへいきなりケーキが運ばれ、ハッピバースデーの合唱が始まる。 びっくりした。実はその日は私の誕生日なのだ。どうして知ったのだろう?‥‥ だが、それは早とちりで、プロジェクトチームのまとめ役Lさんの誕生祝いだった。 祝いが一段落した頃、(同じ日だ)とLさんにささやくと、 (本当は数日前だ)とLさんに返され、 「今日はカズマの誕生日だ!」とバラされた。 すると、みんなが驚き、大合唱になった。 それから3日間、私の誕生日祝いを出しに、毎晩遅くまで食事会が行われた。 おかげで朝、ホテルで食事をする気がしなかった。 1社のブラッシュアップモデルの到着が遅れたので、1日滞在を延ばした。 みんなでいろいろ討議したり、モデルに少し手を加えてみたりしたが、まだまだ改良すべき点があり、1社に決められなかった。軽い徒労感が残った。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 空港までMさんがいつものように送ってくれた。 ドサッと大きなリボンの着いたダンボール箱を、中身は何かも言わずに渡された。 羽田の税関で「中は何ですか?」と聞かれた。 カッターで開封すると、金色に光る物が見える。 「ヤバい!金塊だ‼︎」 だがそれは金色の袋に入ったドライマンゴーの山だった。 毎日私が特別室に缶詰になり、土産を買う暇もなかったので、Mさんが気を利かせてくれたのだ。 一袋300gで、50袋なので、15kgだ。どうりで重いわけだ。 トランクの中の他の品を寄せると何とか入ったが、超重い。 ゆっくり押して家に帰ると、午前0時近くだった。 死んだ。 かずま #
by odysseyofiska
| 2023-04-30 15:12
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